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2021年10月17日

OECDが国際的な法人税制改革に関する「二本の柱」についての合意を発表

OECD(経済協力開発機構)は10月8日、「包括的枠組み」に属する136の国・地域の間で国際的な法人税制改革に関する大局的な合意がなされたことを発表しました。包括的枠組みの参加国には、米国、中国、そして最終段階で参加したアイルランドとハンガリーが含まれています。

今回のOECDの発表は、包括的枠組みの参加国間で合意に達するために必要としていた幾つかの重要なポイントについての説明がなされています。しかし、昨年発表された「二本の柱」のブループリント(青写真)の詳細な内容に関するアップデートはありませんでした。OECDは2022年に計画の一部を修正して採択し、早ければ2023年に発効させることを目指して、詳細な実施スケジュールを定めています。この実施スケジュールでは、第1の柱を実施するための多国間条約など、計画の実施を促進するための新たな作業工程が数多く示されています。

今回の大局的な合意は、2020年10月に発表された「二つの柱」のブループリントや、それを明確化した2021年7月のOECD声明文にほぼ沿ったものとなっています。

第1の柱

第1の柱は、デジタルビジネス及び非デジタルビジネスの区別なく、対象となるすべての事業に適用されます。

金額A(Amount A)は世界の売上高が200億ユーロを超え、かつ利益率が10%を超える多国籍企業に適用されます。利益率10%を超える部分(超過利益)の25%が、新たに創設される課税ルールに基づいて、売上高100万ユーロ(ネクサス)を超える市場国に割り当てられます。第1の柱に関する合意は、全ての包括的枠組みの参加国がの既存の国内デジタルサービス税やそれに類似する措置を取り除くことを求めています。今回のガイダンスでは、第1の柱の金額Aは、世界でも最も規模の大きい一部の企業にのみ適用されることが確認されています。

第1の柱の金額Aは2022年初頭に最終化され、2022年中に批准可能となるように作成される予定の多国間条約によって実施されます。また、OECDは、多国間条約の実施の一環として必要となる国内法の改正についての詳細なガイダンスを提供することになっています。

多国間条約は、既存の租税条約とは別に適用され、金額Aの課税に関する既存の条約との不整合に対処することを目的としています。米国においては、多国間条約は連邦議会で批准される必要があり、そのためには、上院での3分の2の多数決を含む連邦議会における立法手続を経ることになりますが、上院が多国間条約を批准するかどうかは現時点では不明です。バイデン政権は、米国の国内税法の一部として立法的に必要な法改正の成立を行うよう議会に要請することで、上院における条約批准に関する通常の慣行を回避する別の方法を模索する可能性があります。

金額B(Amount B)は、規模に関係なく全ての企業に適用され、基本的なマーケティング及び販売活動に関する独立企業間価格の原則をより確実にし、標準化することを目的としています。金額Bに関しては更なる作業が必要で、2022年までに完成させ、2024年までに実施される予定になっています。

第2の柱

第2の柱は、本社や事業所がどこにあっても、すべての企業が最低限度の税金を支払うことを目的としています。これまで予想されてきたとおり、OECDは、最低税率を15%とし、全世界で7億5000万ユーロを超える収益を上げているすべての企業を、この最低税率規制の対象とすることを発表しました。

最低税率規制ルールの核心は、「所得合算ルール」です。このルールは、多国籍企業の親会社の所在国が、第2の柱に沿って適格な所得合算ルールを実施している限りにおいて、最低税率を課すことを認めるものです。10月8日の発表で、OECDは、米国のGILTI制度と第2の柱の最低税率を共存させるための条件を検討することを、改めて表明しました。これは、現在のGILTIが「所得合算ルール」の要件を満たすものであることを是認するものではありませんが、OECDは、GILTI規則の変更をめぐる米国の現行の立法プロセスが確定するまで、この問題に関する最終的なガイダンスを合理的に保留する可能性があります。第2の柱を成功させるためには、適格な「所得算入ルール」としてのGILTIに関するコンセンサスが不可欠であると、DLA Piperは引き続き考えています。

興味深いのは、最低税率の実施に関しては、具体的な実施スケジュールがそれほど詳細に説明されていない点です。OECDは、第2の柱を2022年に法制化し、2023年に発効させるべきだとしています。しかし、具体的なスケジュールとして、OECDは、最低税率の実施を容易にする枠組みを2022年末までに策定するとしているだけです。DLA Piperは、この問題に関してより多くの詳細なガイダンスをOECDが提供することを期待しています。

最後に、STTR(Subject to Tax Rule)とは、租税条約の特典を否認するルールで、低税率国への支払に対して源泉税を課すことを認めるものです。STTRは、「所得合算ルール」に先行するもので、OECDは、2022年半ばに多国間条約を締結し、その後すぐにSTTRの迅速な批准と実施ができるようになることを目指しています。なお、STTRの最低税率は、9%となっています。

次のステップ

OECDは、二本の柱の詳細を更に検討し、それらを実施するための作業工程について認識しています。しかし、現時点において、OECDが、それに関する最新情報を提供するかどうか、いつそれらを提供するかは、必ずしも明らかではありません。

今回の国際的な課税合意は、10月13日にワシントンで開催されたG20財務大臣会合においても提示され、また10月20日にローマで開催されるG20首脳会議においても提示される予定です。

第1の柱の対象となる企業については、新たな規則の影響についてモデリングを行うことができるようになりました。これに際しては、独自のデジタル税を導入している国・地域における既存のデジタル税の廃止を考慮する必要があります。

また、第2の柱の対象となる米国の多国籍企業については、GILTIの適格所得算入ルールや、さらに重要な点として、米国の潜在的な税制改革(特に、米国の法人税率とGILTI税率の変更)の全体的な影響についての指針がないため、まだ不確実性が残っています。しかし、最低税率規制の枠組みはしっかりと決まりました。したがって、企業が米国の潜在的な税制改革の影響を評価する際には、第2の柱と最低税率の影響も考慮する必要があります。

第2の柱にの対象とならない企業(全世界の売上高が7億5000万ユーロ未満の企業)については、今後の国際的な課税動向がどのようになるか、より確実性が増したものと思われます。

DLA Piperは今後も国際課税の改革動向を注視し、適宜お知らせしてまいります。ご不明な点がございましたら、下記の者までご連絡ください。

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